風の果て

恋をしただけ それだけのことを

女中たち 7/18マチソワ@シアタートラム

マチネはB(碓井ソランジュ、矢崎クレール)、席は真ん中あたりの上手。四角形のセットのちょうど対角線を見るような角度。
ソワレはA(矢崎クレール、碓井ソランジュ)、席は真ん中あたりの下手。昼より少しセンター寄り。冒頭の奥様ごっこでクレールにのしかかるソランジュが目の前にくる位置。
飽きっぽくて集中力の続かない私にあれをもう1セット見ることは出来なかったのだけど、出来ることならもう一周してこねくり回したい舞台だった。1回目見終わった後、矢崎と碓井くんのファンはこれが千穐楽終わった後、次に何を求めたらいいかわからなくならないだろうかと余計な心配をしたくらい、後引く舞台だった。推しにあんな舞台やられたら、2015年幸せだろうな(笑)


客席に入った瞬間からもうお芝居始まってるようなセットの存在感とか、文字数もお写真もたっぷりのパンフとか(姉妹の写真がとても綺麗)、全部好みドンピシャだった。中屋敷さんの作品は、なかやざきのときはピンとこなくて(じわじわと後引く感じはあったけど)、太一くんの一万年~は大好きだったから今回どうなるか予想つかなかったんだけど、結果大正解だった。発表のときから「これは行かねば…!」と思った作品ではあるけど、それにしたって凄い好きなやつだったなー。碓井君もブログに書いてたけど、また2人でやるこんなお芝居が観れたらいいな。できることならパレットのお話を実現してほしいのだけど、肝心の人が全然ピンときてなかったから無理かな(笑)でも何かしらの形で矢崎碓井のタッグはまた見たい。



ベースは、神経質で不器用な姉と、理性的で要領のいい妹かな。
碓井ソランジュはより卑屈で臆病で自意識の高いイメージ。きっと元は典型的な「良い子」のお姉ちゃん。矢崎ソランジュはもっと高圧的で激情的。だから碓井ソランジュの方が「窓を開ける」という行為から感じる承認欲求は強いし、クレールより姉の権力が強い印象は矢崎ソランジュの方が強く感じる。
矢崎クレールは気が強いけど気遣いの出来る子で、いかにも愛され型の妹。気ぃ遣いだからこそ、最後の最後になるまではどこか姉遠慮している感じ。碓井クレールもベースは一緒だけど、碓井くんの可憐な雰囲気のせいか矢崎クレールよりかわいらしくて穏やかなイメージ。

姉妹の性格の差がはっきり見える奥様とのシーン。ソランジュはクレールといるときの強気な態度とは一転おどおどしていて、一生懸命奥様のご機嫌を取ろうとするのだけど全部上手くいかなくて、見ていてとてもじれったくなる。対して、そこにお茶を持って現れるクレールは上手に立ち回る(ここの矢崎クレールの笑う顔がとても好きだった)。奥様もご機嫌を直す。その反対側で、やり場のないソランジュ。
気をよくした奥様が赤いドレスをくださった時クレールはとても嬉しそうな反応をしていて、どれだけ憎んでるようなことを言っても、そういう時に素直にはしゃぐところが可愛かった。「お前にはそうね…この狐のコートをあげましょう」と奥様がソランジュにもお召し物をくださったときの、パッとしないソランジュの反応は観ていてたまらない気持ちになった。「嬉しい」って気持ちを素直に表せなかったのか、本当は自分だって赤いドレスがほしかったのか(でもきっと真っ赤なドレスが似合うのはクレールの方なんだろうな)。


冒頭の奥様ごっこ。
矢崎クレールの体がとても美しかった。矢崎が演じる奥様はちょっと高飛車でセクシー。碓井君の演じる奥様は、十二夜の主演だったというのが納得の女性らしさ。矢崎に比べて薄い身体がキャミワンピの中で泳いでて、仕草のひとつひとつが本当に女の子のように見えた。可愛いなぁ。体格差がある分、首を絞めるシーンでBでは碓井くんが矢崎の背中に飛び乗るような形に見えたのが、Aでは矢崎が碓井君を本当に圧死せんばかりで迫力があった。あ、夜はこのシーンが目の前だったから、矢崎の見せパン見えるかなってわくわくしてたんだけど見えなかったのが残念ですw
役から戻ったあと、興奮して叫ぶクレールをソランジュが抱きしめて寝かしつけるとこは、碓井くんが秀逸だった。姉を通り越して母親のような、穏やかで優しい声色。「しーっ」ってなだめる声が本当におかあさんみたいで、二十歳そこそこ?の男の子からどうしてこんな声が出るのか不思議なくらい。クレールも矢崎の方が好きだったから、この場面切なくてぎゅっとなった。逆の矢崎ソランジュはもっと言い方がキツいから、このシーンに限っては好きじゃなかったな。


首を絞めるシーンの話。どちらもとてもえっちだった。絞殺シーンのエロさといえば「見知らぬ乗客」の遊園地での絞殺シーンが今だにはっきり記憶に残っているのだけど、今回もやっぱり性的なものを感じて、「絞殺」とは何かそういう意味合いが込められているものなんだろうか。横たわるクレールの、まくれ上がったスカートの裾から剥き出しになる太腿は筋肉質な男のもので、それなのになぜかとてつもなくエロい。

最後の最後、私は泥棒にはならないと、最期まで行けないというかのように菩提樹花のお茶を飲むクレール。ここの矢崎クレール綺麗だったぁ…。妹の意図を察して一気に弱気になっておろおろし始めるソランジュも、碓井君の方がそれまでの流れとマッチするので、ちいさな子どものようにうろたえて縋るソランジュと、力強く励ますかのようにお芝居の台詞をつけていくクレールが、序盤の2人と逆転した形になっていて良い。クレールの有無を言わせない態度は、上から強制するんじゃなくて、そっち(泥棒になってでも逃げて生き続ける選択)には行けないのという懇願の表れだったのかな。姉に「2人分の人生」を託して菩提樹花の御茶を飲み干すクレールは美しかった。縋るソランジュは惨めだった。最後まで惨めな女だった。どうしても姉の惨めさを強調して感じてしまうのは、私自身が要領のいい愛され上手な下の子がいる姉であるせいだろうけど(笑)だからきっとソランジュに対しては憐れみが強いし、クレールに対しては憧れが強い。


格子のような真っ青な正方形のセットの中に閉じ込められた姉妹が、そこに残ったまま終わる演出が好きだった。女中たちのひそやかなごっこ遊びを「覗き見」した私たちの方が、そこにいる彼女たちをそのままにして劇場を去る。あのお部屋ごと、トラムの客席ごと、冷凍保存してしまいたいような作りこまれた空間だったなー。