風の果て

恋をしただけ それだけのことを

朗読 蒲田行進曲完結編『銀ちゃんが逝く』7/10-7/12@紀伊國屋ホール

3/30の改竄・熱海殺人事件東京千穐楽から3カ月半。永すぎた春が終わった。

そもそもは「ニッポン放送開局65周年 つかこうへい演劇祭―没後10年に祈る―」という企画だった(そういう名前だったんですよ、忘れがちだけど)、今年の一連の公演。

熱海が始まるころにはタイトルからニッポン放送の名前が消え、モンテカルロイリュージョンをやってる横で東京オリンピックが延期になり、ありとあらゆる公演がストップし、それでも。
2020年7月10日、没後10年の命日に、「2020年7月『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』新宿・紀伊國屋ホール」という当初公開されていた情報を全部クリアして、最終演目は幕を上げた。もの凄い執念を感じる(笑)。
そして私はその執念を信じていたし、だからこそ絶対に自粛開けはここから観劇をスタートしてやろうと思っていた。3月末のあの日の続きを、止まったままだった「日常」を、もう一度始めるための紀伊國屋公演。


…というややポエミーな感情を胸に涙の初日を迎えるかと思ったのだが、開演前に流れてきたゲネプロ記事の「演出の岡村氏は「稽古をしているうちに。8割くらい朗読じゃなくなった。朗読はするが、しっかりと演劇をする」と説明」(味方良介、つかこうへいさん没後10年の命日に舞台初日「劇場にいるって最高。泣きそうです」 : スポーツ報知)という文章にめちゃくちゃ元気になってしまい、そのまま元気いっぱいに紀伊國屋ホールに「ただいまー!」した。実家のような安心感!!!!(笑)

初日は1幕ラストの「1カメ2カメ3カメ4カメ、全カメラヤスに寄れ!!」で1回泣いて(びしょびしょのまま休憩に入らせないでほしいw)、それから最後、カーテンコールで沸き起こった拍手の圧でぼろっぼろ泣いた。私!今!観劇をしている!!!!という興奮。3月の、毎日が千秋楽かもしれなかった頃とはまた違う音。
初日がちょっと異質すぎたせいか、あれが最高得点でそれ以上が出ないまま終わった感じはあるけど、今回ばかりはそれでよかったんだと思う。音も照明も観客も、この状況下のこの日この場所で味方良介が倉岡銀四郎を演じるために存在していたみたいだったもん。こういうことがあるから、「生の観劇」を人は求めるんだよなぁ。



役者と本編の話。

  • ヤス(植田)

初日、開始2秒で号泣する気で行ったのに、なんか普通の人みたいな植さんから始まったもんだから妙に冷静なまま「この植田のことは5年先までこすり倒そう」と思った。いやまじでその辺のぴよっとした若手俳優みたいだったんだって、あの植さんがwなんなら命日公演絶好調フルスロットルの創くんに食われてる感じすらあって、この3日間は植さんの成長を見守る期間になるんだろうか…などと一瞬本気で心配したんだけど、そこはさすが2.5界のover30組、1幕後半にはしっかりがっつりエンジンがかかっていた。シンプルに芝居が上手い。感心すると同時に、やっぱり最初のあれは今後5年は言い続けようと思った。レアなもん見たw

植田ヤス、どんなにつゆだくで芝居してても絶対にコントロールを失わないのが凄い。ほぼ泣きじゃくってるような状態でもメーター振り切れることがないし、次の瞬間にはスンッと色が変わる。初日の1幕後半、上手すぎてそのまま植ちゃんが全部持っていくかと思ったもん。そのあと出てきた銀ちゃんがまじのまじでスターさんだったので、そんな考えは杞憂に終わったわけですが。
初日からずっと対銀ちゃんより対小夏の芝居の方が良かったんだけど、対小夏のヤスって徹頭徹尾クソ野郎なので、つまりクソ野郎の芝居がめっちゃ上手いな…と思いながら見ていた(笑)DVが映える…(笑)
あと植ちゃんの中のヤスは、本当に「俺は映んなくたっていいんです!銀ちゃんかっこいいーー!これがあればいいんです!」って思ってそうだよなぁ。これりゅーきあたりだったら、絶対全カメラ俺に向けさせるし、まじで階段から落ちることでスターに成り上がりにいくヤスになりそうだもん…w

個人的にはもっと対銀ちゃんの巨大感情特盛のヤスを見たかった気もするんだけど、そこらへんは飛龍伝の山崎と桂でさんざんやったし、もうどうやってもあの二人に勝るものがないので、今回の座組だったらこれが正解なのかも知れない。

  • 小夏(さゆ)

じょ、じょゆうだ~~~!!!と思った。久しぶりに、ヒロインの位置に「女優」がいるのを見た。
つか作品というか岡村作品は最近ずっとアイドルもしくはアイドル出身のヒロインが続いていて、馬力があって勘が良くてハッタリが効いて、かつ技術よりも生身の自分を商品として切り売りするアイドルとつか作品の相性がいいので、今回もその流れかと思ったら全然違った。あまりにも「女優」だった。
うら若き女の子のはずなのに「全盛期を過ぎた女優」のねっとり感がちゃんとあるし、本当に30過ぎてあとがない女に見えるんだよ。ヤスのアパートで、「実家に電話してよ。好きな女がいるんです。もう一緒に住んでます。3か月なんですって。ねぇ電話してよね。」って詰め寄るシーン毎回怖すぎて、なんかもうさゆりに抱かれてぇな…みたいな気分になってた。とんでもない女がいたもんだ。

最後の階段落ちの前、ルリ子を抱いた小夏がヤスに言う。
「こっちからこっち側のあたしらはスターさんで、こっちからそっちのあんたたちはゴミです。」
スターである銀ちゃんを落とせるのは、スターさん側でかつ銀ちゃんを愛し愛された小夏しかいない。最後の監督と銀ちゃんのやりとりの後ろで、最低限のまばたき以外ぴくりとも動かない無表情で佇んでいるさゆを観ながら、次は夏枝がいいなと思った。愛した男に罪無き四十万人の市民を一瞬で殺させてほしい。

限りなく勝海舟(@新幕末)のいでたちに近い姿で龍馬を演じており、対するのが土方役の味方というひじょーーーーにややこしい状況だったので、初見はちょっと笑ってしまった。とはいえ、いてくれると嬉しいし安心する圭ちゃん。役付きの人数が少ない中で、味方が現れる前からずっといる創くんと圭ちゃんがサブにどーんといてくれるの良かった。

あと中村屋の若旦那が「血を絶やさない」ために知らぬ男の子を妻に産ませるの、ちょうどはじ繭放送時期と被ったので、めっちゃグランギニョルだな!?と思ってしまったのはごめん。家柄が強いと大変だね…。

  • ケン(綱くん)

君は…なんでここに来たんだね…?というキャスト発表時の謎は、実際見てもわからんままだったけど、回を重ねるごとに声が死んでいっていて元気な若手のお手本みたいでよかった。率直に言って存在が薄いので初日はなんも印象に残んなかったんだけど、前列で入ったときにじっくり見たらいかにもナベの若手って感じの可愛い顔をしていた。身長もあるのでカテコでタキシード着るとシュっとしてて良い。
公演期間が3日しかないせいもあるかもだけど、突然突飛な方向に走り出すこともなく、手のかからない3歳って感じで可愛かった。追加公演の方が期間長いので、頑張って生き延びてほしい、綱くんの喉(笑)。

  • 銀ちゃん(味方)

味方、まじで紀伊國屋と付き合ってた。やしきさんが言ってたのは本当だった。
幕が開いて、白タキシードで現れるみかてぃ、本当にスターさんなんですよ。1幕ラストも本当に銀ちゃんが良くて、あそこで終わりでもいいと一瞬本気で思ったくらい。新幕末の日替わり大喜利でクソ隊士どもにおもちゃにされていたみかてぃは、4年前の命日公演で客席から馬場さんにメッタメタにされていたみかてぃは、すっかり紀伊國屋のモンスターたちの仲間入りをしてしまった。ちょーーーー似合ってたなぁ銀ちゃん。あそこまでハマると思わなかった。
あと初日から3か月というブランクがあったとは思えない声量に軽く引いたけど、2日目前方で入ったら肉声なのにちょっと音割れして聞こえたので、二度引いた。どういうことなの(笑)

今回の「銀ちゃんが逝く」は、1時間ごとに換気休憩を入れる都合上、ヤスの階段落ちまでが1時間で描かれる。
1幕は大部屋役者のヤスが銀ちゃんと小夏のために階段落ちをしてスターになる話。2幕は銀ちゃんと小夏、それと中村屋も含めたスターさんたちの話。そしてどっちもたぶん、「次の世代」へ繋げるための階段落ち。1幕の階段落ち直前、ヤスは銀ちゃんに「じゃないと新しい命産まれません!」と叫ぶ。銀ちゃんは娘をこの世に誕生させるためにヤスを斬る。2幕は愛する娘を救うために、今度は自分が階段から落ちる。


銀ちゃんが死んだら、新しい時代が開ける。
紀伊國屋ですっかり本物のスターさんになってしまった味方を観ながら、「これが味方の卒業公演で、次からまた新しい世代のつか作品が誕生したらめちゃくちゃ痺れる展開だなぁ」なんて思ったけど、現状特に跡継ぎに入れそうな子が浮かばないのが惜しいところだな。
でもよく考えたら馬場さんがリリーやった時点で味方はまだあの周辺に影も形もなくて、りゅーきの引退と綺麗に入れ替わるという凄いタイミングで次の桂小五郎をやった若手俳優が、びっくりするほど喉が強くてそのままあれよあれよとニュージェネレーションを築き上げてしまったのだから、次の世代なんてのは客が思っても見なかったところから突然現れるんだろう。

なつのお題箱