風の果て

恋をしただけ それだけのことを

勝手に演劇大賞2020

大好きなえんぶチャートも中止になってしまった2020年、何もないのも寂しいなぁということで、私のによる私のための演劇大賞を勝手に綴ります。


ド頭から脱線しますが、2020年はずっとベッド&メイキングスの話を思い返す年でした。
www.bedandmakings.com

毎日ぞっとするほどの数の公演中止・延期のお知らせが流れてきていた3月~4月はずっと「南の島に雪が降る」や「あたらしいエクスプロージョン」のことを考えていた。戦時中にそれでも芝居を続けた人たち、それでも映画を撮りたかった人たち、戦後生き残りで集まって映画を撮り続けた人たちの物語。

7月以降は事あるごとに「墓場、女子高生。」を思い出していた。あの話のラストでビンゼが「急にいなくなってもいいように先に言っておくね」といって告げたのは、ありがとうでも愛してるでもなく、「さようなら」だった。確かに「さようなら」を言い切って終わるのが一番難しいよなと、当時ハッとしたのを覚えてる。

「みんな私が死んだ理由になんかなれないんだよ。私たち確かに毎日一緒にいたけれど、みんなのせいで死ななきゃならないほど、仲良くはなかったよ」

そうなのかもしれないな。だとしたら、やっぱり私たちは日野ちゃんが死んだ美しい理由を考えるしかないんだろうか。でもそれはなんか嫌だな、まだ。


そんなことも考えながらの2020年。独断と偏見で選ぶ作品賞、俳優賞、特別賞はこちら。


作品賞(現場篇)

  • 1位 飛龍伝2020

choco-ice.hatenablog.com

総合得点で優勝。言わずと知れた名作なのでストーリーが面白いのは当然として、そこに2016年から続く味方×石田最強タッグが綺麗にハマり、脇を固める圭ちゃんや智則さん、下っ端で頑張っていた宝を含め、全てのピースが気持ちよく納まっていた。ゆっかーさんは神林美智子としてはやや弱い感じもあったのだけど、それによってより「桂木と山崎の飛龍伝」になっており、今回のこの座組としてはバランスがとれていたのもよかった。(そういう意味では初級革命講座に近い飛龍伝だったかもしれない)
世界が変わる直前の2月上旬、コロナという特殊要因無しに、ただただ「たのしーーー!!!!」っていう作品に出会えたのは幸運だった。
謎のイベント回で2015年ぶりに神尾さんの初級革命講座冒頭長台詞を見れたのも忘れられない。初級革命講座もう1回観たいな…(と毎月ダブルの最新話を読むたび思っている)(脱線)

  • 2位 知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆の如し。

「劇場に行く」ことの難易度が信じられないくらい上がってしまった2020年。それでも劇場に行くかと問われた時に、迷いなく「行く」と答える生き方を選んだことに対して、「正解!」って言われたような時間だった。そのくらい、観に行ってよかったと思った。
2020年、今この瞬間の、この1年の経験と共に見た知り難きでしか得られないものを浴びるように摂取した3時間半だった。あの照明も幕に映し出される無数の「たすけて」の文字も、回転するセットも重なり合い反響する役者たちの声も、きっとこの先どこかで映像化されることはない。同時に、脳内で重なっていくEndorphinやFührerの光景もあのとき生の現場で得た記憶の中だけのもので、曖昧なのにところどころやけに鮮明で、そういう記憶の重なりの中に、今観ている知り難きの光景も刻まれていくんだろう。
難解で苦しくて傷ついて傷つけられて後味悪くて、ついでにスペゼロの椅子で身体も物理的に痛めつけられて(笑)、それなのに見終わった後に凄く強くなれるんだよなぁ。

choco-ice.hatenablog.com

緊急事態宣言明け一発目、「感染症対策を考慮しながらの演劇」とはそもそも何なのかもわからなかったあの頃(今もわかってないが)、少ない人数と動きで実現できる・リモート稽古がしやすい・比較的短い尺で終わりがち、ということで「朗読劇」が流行った。「朗読劇」であることがこのご時世に有観客演劇をやることの一種の免罪符みたいになっていた気もする。そんな中で流行りの朗読劇というテイで発表された蒲田行進曲は、「稽古をしているうちに、8割くらい朗読じゃなくなった。」という迷言と共にそれはそれは元気よく幕を開けた。全然朗読劇じゃなかった。
飛龍伝はコロナ関係なしに良作だったけど、蒲田はコロナ禍真っただ中に執念で幕を開けた彼らと、これまた執念で通った私たちの「つかこうへい演劇祭最終演目」として最高の仕上がりだった。2020年の思い出としては、ある意味これが一番愉快な思い出かもしれない(笑)


作品賞(配信篇)

  • 1位 メル・リルルの花火

公演が続々と中止になり、急きょ無観客配信に切り替えたり、ついには稽古もできなくなって完全リモート演劇が産まれたりとてんやわんやの中で配信された名作。
www.obonro-web.com

「よく間に合ったな」というのが正直一番の驚きなんだけど。本来1本の物語だったものを配信用に書き直し14公演にわけて連載形式でお送りされたこの作品。「中の人」としての前説トーク→本編→ムーブメントアクターによる映像作品の短編→メイキング→そして翌公演につながる〆のトークの流れだった記憶なのだけど、最初と最後のトークがほぼリアルタイムで書き上げられており、現実と物語のはざまの不思議な次元で語られる会話によって、家にいながら物語に引きずり込まれていくような感覚が衝撃的だった。本編中の真っ暗な画面の中にちゃんと登場人物の姿が浮かぶのも、話が終わると「ハイおしまい」とばかりに自分の部屋に戻されるのも不思議な体験で、その体験まで含めてSFだった。
「配信でもこんなことができるんだ…!」と思ったけど、その後どんなに配信演劇が流行ってもこんなものは生まれなかったので、全部全部おぼんろだから為せる業だったんだろうな。

「ひとしば」企画の3作品目、北村諒×西田大輔。
choco-ice.hatenablog.com

メル・リルルが配信という手段に変換するテクニックが光る作品だとしたら、こっちは配信でも演劇は浴びられるという熱量重視の作品だったように思う。そもそもひとしば企画自体が私が見た配信演劇の中で群を抜いて面白かったので、カメラアングル含めた配信技術の高さはあるのだけど、その上で「配信で見ても西田作品は西田作品だった」というのはそれはそれで衝撃的だった。なんせ開始2秒で西田なので。
開始2秒の西田を浴びて開始2秒で泣いたときに、自分で思っていたよりも飢えていたんだなと思った。おかげで65分ずっとべそべそ泣きながら見る羽目になった。第二次世界大戦ナチスドイツ、ベルリンの壁…といつもの大サビだけ濃縮還元したような物語なのに、ちゃんと「今」に訴える作品になっているので西田さんは怖い。

  • 3位 いまさらキスシーン

おなじく「ひとしば」より、橋本祥平×中屋敷法仁。
choco-ice.hatenablog.com

もはやこれは配信がどうとかじゃない、シンプルに「いまさらキスシーン」という怪作に橋本祥平が挑むという事実そのものの事件性が高すぎた。完全にコロナが生んだ事故。バグ。うっかりコロナに感謝しそうになったので勘弁してほしい。
しょへのひよりちゃん、とんでもなく可愛かったな。いまさらキスシーンを最高得点で演じられるのは玉置玲央以外ありえないのですが、だからといって次世代のひよりちゃんが産まれてはいけない理由などないのだと思った。そこは両立できるんだ、という発見も収穫。


俳優賞

エイリアンハンドシンドローム、知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆の如し。他)
めちゃくちゃ今更なんだけど、今年は改めて「この人芝居がめちゃくちゃ上手いな…!?」と思わされることが多かった。というのも、今年観たむーさんってひとしば、エイリアンハンドシンドローム、知り難き~という西田作品3連発と、翔太くん&たろちゃんとやったうち劇(=ほぼむつご)なんですよね。
北村諒という人はあまりにも容姿が美しいのでどうしてもそちらに気を取られがちなんだけど(知り難きで見たときマジでそろそろ人間やめるのかなって思った)、西田作品ってあの美しさと芝居の上手さ両方フルで引き出すことに毎回成功している貴重な場所なんですよね。それはむーさん本人があの場所を好きであることも関わっているのだろうけど。そのせいか、いつも以上にむーさんのお芝居の良さを浴びれたのがよかったなと。
あとうち劇は稽古時間少ないはずなのにあのスピードでの台詞のやり取りが、ハプニング時の対応含めまっっったく崩れなくて、むつご歴4年の人たちのパワーを感じた。内容のライトさの割に読む難易度が高そうなホンを乗りこなすスキルがめっちゃ高いんだよなぁ、松の人たち。

  • 2位 梅津瑞樹

(舞台「刀剣乱舞」綺伝他)
元々上手いなと思ってたんだけど、綺伝でベテラン揃いの朧人間キャストたちと会話するシーンを見たときに、あぁこの人本当にお芝居が上手んだなと思った。私の中に「芝居が上手い人は普通の会話が一番上手い」という評価軸があるんですけど、長義があまり2次元っぽい癖のある喋り方でもないのもあってあの会話のキャッチボールがすーごくなめらかに入ってきたんだよね。変な引っかかりが何もない。2.5じゃないゴリゴリのストプレでもっと見たくなる人。
……と言ってたら社中の朗読劇にすごい役どころで投入されたので、さすがに「毛利さん!その子はひろきくんじゃないのよ!!」と肩掴んでゆさぶりたくなったけどw、梅津に艶様やお嬢をやらせたくなる気持ちはとてもわかるので、今後もいろんな意味で期待していきたい。あとは早くほさかさんに捕まってエグい作品に出てほしい。

(改竄・熱海殺人事件モンテカルロイリュージョン)
間違いなく今年観た中で一番狂ってた女。土日外出自粛令で1公演死んでしまったので、1回しか見れなかったことが悔やまれる。面白かったのでまた屋敷作品に出てほしい。


特別賞

  • DisGOONies

エイリアンハンドシンドローム、Führer)
disgoonies.jp

銀座の良立地に誕生したご飯とお酒とお芝居が美味しい海賊船。
このお店の開店もここでお芝居をやることもコロナ前から企画されていたらしいけど、結果としてこのご時世に演劇をやれる最強の抜け穴を自力で作り上げる形になってた。悪運の強さを感じる。
元々観客含め「船の乗組員」という形を取っていたDisGOONieだけど、レストランという空間の狭さと演者と客席が地続きの状況ゆえに、本当にあの空間まるごと「船」であるような、乗り合わせた全員が運命共同体であり共犯者であるような感覚でお芝居を浴びれる最高の場所。お酒が本当に美味しいんだけど、結構な度数のものをコラボカクテルとして平然と出してくるので、まじで海賊の店だな…と思ったりもする。
行くたびにレストランの感染症対策が強化されており、至れり尽くせりの状態なので飲食店としてもなんとかこのご時世を生き抜いてほしい。


番外編

  • 劇団朱雀 ぎふ葵劇場幕引き公演

写真撮影、ハンチョウ、送り出し、増え続ける補助席…といった大衆演劇らしい要素が軒並み制限された状態での幕引き公演。この状況下での岐阜遠征という部分も含め色々と不安もある中での開幕だったのだけど、蓋を開けてみればコロナと全く関係のない事件・ハプニングが続出しており、どんな時でも朱雀は朱雀ダナァと妙な感心の仕方をしてしまった。
2020年末も朱雀の公演が見れたこと、相変わらず神様みたいな太一さんを拝めたこと、初参加須賀ちゃんがとっても働き者のスーパールーキーだったこと、色んな事に感謝しつつ、あと1週間客席含め誰も発症しないことと太一さんの手が大事なく完治することとゆっくんさんの身体が早く回復することを祈りたい。祈ることが多すぎるので、もう少し心穏やかに見せてくれという気持ちと、この追い詰められた時のキマり方こそが朱雀よねー!の気持ちのはざまで揺れる2020年の終わりだった(笑)いや、まじで健康第一で頑張ってくれ。

なつのお題箱